二枚の紙をみて、面談担当者の人はほっと安心したようだった。
「そういうわけでしたか。お母さんのほうはとっても玄人好みのプランですね。お父さんのほうは面白いですね」
妻が畳みかける。
「第三志望が抑えのはずのここなのは娘の希望です。気に入ったそうです」
その後は妻の提示した案を前提に議論が進んだ。
横浜の名門に入ってハイキングしながら可憐な10代を過ごしてほしいという私のささやかな妄想は粉砕された。抑えでも、かわいらしい制服きて白鳥とか呼ばれてもらいたいという淡い憧れも露とおちた。
ただ、妻の臥薪嘗胆とかいう狂ったプランは「発奮するかもしれませんが、もしかしたら学校行かなくなるかもしれませんよ」とやんわりとたしなめられ、抑え目の基本路線は維持しつつ穏当な学校群に置き換えられた。
ちなみに春秋時代の有名な故事である臥薪嘗胆。成功のための秘策のようでいて、それにかかわったやつは全員ロクな死に方をしていない。というか完全におかしくなってる。伍子胥も夫差も句践もみんなやばい。人として大事なことを見失ってる。
諸兄は決してマネしないほうがいい。
私が説得できなかったことをきちんと指摘した面談担当者の人には感謝してもしきれない。妻も私の言うことは聞かないくせに「そうですよね」とか素直に納得してた。
ただ、面談担当者は一番だいじなところで止めてくれなかった。
第二志望校である。
自主自立だし、学校の雰囲気が活発だし、なんかいいと思ったんです。
でも、我ながらちょっとネタに走った感も否めない。
それ用の勉強まったくしてないのにどうすんのこれ。ってもう一人の自分が突っ込みを入れる。
だれかに止めてほしかった。
西荻窪の学校かフランス語も学べる学校にしましょうよと言ってほしかった。
たぶん大物討伐があるとするならば、ここなんだろうと面談担当の人もヤマっけでちゃったんだろうな。初年度だからみんな右往左往するだろうし。
その気持ちわかります。
でも、ほんとうに受けるかどうかはもう少し考えます。
作文はできそうだけど、あのIQテストみたいな算数、絶対できなさそうなんだよなあ。
文系女子だからグラフ読めないし。
(おわり)